日本においてロシア語が学習される場としては,大学の非専攻課程として,すなわち,いわゆる第2外国語として,というのが実際上大きな部分を占める.学習人口で言えば,専攻課程を上回る.そして,習得基準を設け,それを学生に学習のためのロードマップとして提示し,学生の目標とさせることが求められる. 言語の習得基準として現在注目されているものに欧州評議会による「ヨーロッパ言語共通参照枠」(Common European Framework of Reference for Languages: CEFR)があり,それに準拠したロシアにおけるロシア語検定TPKИ (Тecтиpoвaние по русскому языку как иностранному)がある.後者の「第1レベル」(Ⅰ сертификационный уровень)はCEFRのB1レベルに相当し,日本や台湾ののいくつかのロシア語専攻課程で卒業時の目標とされている.つまり,専攻課程で学んでいなくともTPKИの「第1レベル」に合格していれば,専攻課程を卒業したのと同等のロシア語力ということになり,実際にその学力を身につける者もいる. 実際の非専攻課程の教育現場では学習時聞に乏しいのでA1レベルにいたる前のステップ「Pre Aレベル」を示すことが必要である.このレベルでは,CEFRにつながりを保ちつつも,「行動中心主義」は制限せざるをえない.語学力が最初歩の段階では,特定の表現が使えるようになったことを基に習得基準が構成されざるをえないのである.そして,まず習得すべき「表現」が確定するならば,その運用を成り立たせるものとしての「語彙」と「文法」,さらに「レアリア」が明確になる.これら4部門でそれぞれの連関を十分に考慮に入れて,習得のステップ(基準)を策定することになる. 同時に,非専攻課程教育においても,特に初歩の段階での習得基準の策定は,コースデザインを見直すことであり,それは学生のキャリアデザインにつながるものでなければならない.